風鈴の音と厄除けを求め古刹へぶらりと..
静岡県の袋井市には、夏に風鈴が涼やかに鳴り響く場所が少なくとも3ヵ所あります。
目の霊山「油山寺(ゆさんじ)」と秋葉総本殿「可睡斎(かすいさい)」、そして厄除観音「法多山(はったさん)」の3つの古刹(こさつ:古い寺)のことを遠州三山(えんしゅうさんざん)と呼びます。
毎年の紫陽花が咲き始める5月中旬頃から、まだ暑い夏が残る8月末までの期間に「遠州三山風鈴まつり」が催され、遠州三山のそれぞれの古刹の境内が風鈴の音で包まれます。
風鈴の由来は、堂塔の軒の四隅につり下げる青銅製の鐘形の鈴である風鐸(ふうたく)と言われています。
遙か昔、風が強い時には風に乗って流行り病や邪気などの災いを運んでくると考えられており、風鐸の音が聞こえる範囲ではそれらの災いが起こらないと信じられていました。
平安時代の頃に風鐸は魔除けとして貴族の間で取り入れられ、鎌倉時代の頃に風鐸が風鈴と呼ばれ、江戸時代の末期に吹きガラス(びいどろ:和ガラス)で作った風鈴が庶民の間に流行したことで、いつしか夏の風物詩として広く親しまれるようになります。
とある暑い夏の日の「法多山」、最初に出迎えていただけるのが仁王門です。
寺を邪悪なものから守るためにひっそりと佇む仁王像の鋭い睨みが全身に突き刺さりますが、なんとか無事に歩みを進めた先にある長い石階段を上がってみると、広々とした本堂の一帯は風鈴が奏でる涼しげな音に包まれており、今日の朝までにため込んだ邪気や厄のすべてが払われたようでとても清々しい気持ちになります。
境内に風が吹き抜けるたびに約4000個の風鈴が奏でられ、個数限定ではありますが木の短冊に願い事を書く「願掛け風鈴」を奉納することで奏でる音色の一つとして加わることができます。
本堂を参拝した後は、境内にあるだんご茶屋で売られる名物の厄除団子が待っています。
徳川将軍家から「くし団子」と御命名を賜って以来は一般の参拝客にも食べられるようになったと言われ、五本の串に刺した団子は頭・首・胴体・手・脚の五体を表し厄除けが込められていると伝えられています。
7月からの夏限定で、遠州抹茶味のかき氷に厄除団子が刺さっている厄除氷を食べることができます。
風鈴の音によって心、団子によって身がいったん清らかになったことで心機一転、箱入りの厄除団子をお土産に明日からの新たな邪気や厄に抗い、来年の夏には残りの二山のどちらかの音に包まれたく思います。
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袋井市の中心部にかつて存在した「袋井宿」は江戸日本橋から京都まで至る東海道の53ある宿場の中間地点にあたる27番目の宿場で、遠州三山など周囲に寺社が多いため門前町としても栄えました。
1813年に大坂の豪商である升屋平右衛門が、「袋井宿」の大田脇本陣に宿泊した際に「玉子ふわふわ」(たまごふわふわ)が朝食の膳にのったと仙台下向日記に記しています。
現代においてご当地B級グルメとして再現され復活した「たまごふわふわ」ですが、玉子とだし汁だけつくるふわっとした見た目、ふわっとした食感、はたして200年以上前に実際に目にした升屋平右衛門と同じ驚きと興味を抱けるのだろうか、同じではないであろうがきっと近い味わいだったかもと楽しめる一品です。
写真・文:ミゾグチ ジュン