“ 往来をぶらぶら一人歩いてゐる ”
秋の「どうだん亭」

「時雨を急ぐ紅葉狩 時雨を急ぐ紅葉狩 深き山路を尋ねん」(謡曲「紅葉狩」)
「ドウダンツツジ(満天星)」が紅く色づく毎年11月に一般公開される登録有形文化財『満天星亭(どうだんてい)』の母屋は、1723年(享保8年)に荒木家の居宅として岐阜県吉城郡坂下村(現在の飛騨市)に建築され、1942年(昭和17年)に現在の愛知県尾張旭市に移築したもので、移築の際に3階建てを2階建てに改造した合掌造りの民家です。
1967年(昭和42年)に、母屋がやや東に曳屋(ひきや:建物を解体せずにそのまま移動すること)され、このときに「離れ」が新築されました。

門を抜け、石畳をしばし歩くと見えてくる紅く色づいた「ドウダンツツジ(満天星)」に迎えられながら「満天星亭」の玄関から客間へと入ると、幾星霜を経て深い色合いになった梁や柱などの木々から豊潤な古酒のような薫りが染み出し漂ってきます。
室内灯の橙色、塗り壁の黒い染み、もう役割を止めた掛け時計、かつての生活を偲ばせる囲炉裏、哀愁良く朽ち始めたソファー椅子、外から畳を照らす穏やかで暖かな秋の光。
その光を浴びながらぼんやりと庭の紅い「ドウダンツツジ(満天星)」を眺めていると、分泌されたセロトニンのおかげか心の安らぎに伴い畳の上に横になってちょっと一眠りしたくなります。
次の一般公開は「ドウダンツツジ(満天星)」が白い壺型の花を咲かせる4月中頃です。
落葉性の花木ならではのそれぞれの「春の白」と「秋の紅」を、移りゆく季節の愛しさと寂しさに揺れる心の情を「満天星亭」でしばし愉しむのも一興です。
ひな祭りの時期にも一般公開されて、明治時代以降のひな人形を母屋から離れまで華やかに飾られるとのことで、それもまた楽しみです。







写真・文 / ミゾグチ ジュン
