日本の歳時記 – 風 –
風
「風」は気象的な意味のほか、風を読む、風に訊く、風潮、順風、逆風など世情や状況を表す言葉としても使われます。また風情、風趣、風月、風土といった言葉に表されるように自然と人の結びつきの強さを見ることができます。
俳句や詩歌の中では、秋の風が寂しさを、春の風がやわらかな温かみを感じさせたり、背景にある物事や心情、感性を代弁したりと、様々な表現に用いられます。
気象的な意味の風も季節や地域、吹く状態によって、その名前は多岐にわたります。
風の名前
色無き風/寂しげな様子を表す、身に染むような秋風。
野分/野の草を分けるように吹く強風。
いなさ/大雨を伴う南寄りの暴風。
雁渡し/雁が渡ってくる頃に吹く風。
初嵐/立秋を過ぎ初めて吹く冷気を含んだ風。
やまじ/瀬戸内地方に吹く強風。
おしあな/東南方から吹く暴風のこと。九州地方での名前。
送りまぜ/盂蘭盆会のあとに吹く強風のことで、精霊を送る風と言われる。
金風/稲穂を揺らす秋の風。
鮭颪/鮭漁のはじまりを告げる風。東北地方で呼ばれる名前。
木枯らし(凩)/初冬に吹く北風。
おろし/冬山から吹き降りる強風。鈴鹿おろし、六甲おろし、伊吹おろしなど、その地域の山の名前が付けられる。*おろしとは吹き降ろす風という意味。
空風/冬山から吹き付ける下降気流。冬の季節風で冷たく乾燥した風。
北しぶき/雨がしぶきとなる冬の雨天に吹く北風。
ならい/冬の季節風。山に沿って吹く。
八日吹き/旧暦の12月8日に吹く雪まじりの風。
比良八荒/滋賀県の白髭神社法会前後に吹く寒風。比良山おろし。
春一番/早春、初めて吹く強い南風。
東風/春を告げる風。
花信風/花の開くことを知らせる春先の風。
貝寄せ/春先、浜に貝を運んでくる風。
涅槃西風/彼岸西風とも言い、彼岸前後に吹く西風。
春疾風/砂埃を巻き上げて吹く強い風で春特有のもの。*急に激しく吹く風のことをはやてと言う。はやての「て」は風の古語。
桜まじ/桜の季節に吹く南風。瀬戸内地方での呼び名。
木の芽流し/木の芽がふき出す初夏の湿り気のある南風。
ながし/梅雨の時期に吹く南風。湿気を帯び蒸し暑くなる。
薫風/初夏、新緑の季節に吹く風。
黒南風/梅雨の初期に吹く風。梅雨明けの頃に吹く風は白南風。*南風(はえ)は近畿地方より西でそう呼ばれる夏の季節風。
やませ/山から吹き降ろす北東・東の強風で、夏なのに冷たく感じる。
黄雀風/7月初旬に吹く高温多湿の南東風で、季節の変わり目を告げる。
あいの風/真夏の土用の頃、南風のあい間に吹く涼しい北風。
盆東風/晩夏に吹く東風。暴風雨の前兆と言われる。
そのほかにも
荷風(ハスの上を吹き渡る風)や雁の羽風(雁が飛ぶときに起こす風のようにゆるやかな風)など状態を表しているものや松風(松林に吹く風が立てる音)、雪風(吹雪の異名)、台風(台湾を越えて来るということから名づけられた暴風雨)など風にまつわる名前の多様さには改めて驚かされます。
文 / 宮崎 ゆかり