古の伝説、三河湾を望みながらぶらりと..
愛知県の中南部、西尾市西幡豆町の駅舎のない「西幡豆駅(にしはずえき)」から三河湾を望む海辺までは歩いて数分と言ったところです。
海が見える景色までの道中、幡豆の由来の一つと言われる幡頭(はず)神社の「欠の亀岩(かけのかめいわ)」の伝説に出会います。
日本武尊(やまとたけるのみこと)の東征の際に駿河の海で遭難して命を落とした建稲種命(たけいなだねのみこと)の遺骸が海岸の亀岩に流れつき村人によって葬られたと伝えられています。
とある今日の穏やかな海を眺めながら、1960年(昭和35年)から1963年(昭和38年)にかけて作られた防汐堤に沿って歩いていると、空を舞う鳥たちに隠れて島らしきものが前方に浮かび上がってきました。
やがて、海を背に道伝いに戻る途中でジェラートのお店を見つけて、抹茶ホワイトチョコ・ブルーベリーレアチーズ・黒イチジクソルベの彩りよく贅沢3フレーバーを優雅に味わいます。
お店を出ると「寺部城址」への案内板を見つけたので訪れてみると、戦国期の本丸・土塁・堀などが遺構として残る一帯は草木に覆われる小高い丘で、三河湾を一望できるこの地をかつては幡豆小笠原氏なる一族が治めていたことを知ることができます。
1593年に南海探検によって小笠原諸島を発見した小笠原貞頼は、幼少の頃からここ寺部城に寄寓(きぐう:一時的に他人の家に住むこと)していたとのことです。
丘を降りた先の川に沿って歩き踏切を越えると、建物の一角に茶色い杉玉を見つけました。
思いがけず見つけた日本酒蔵元の直売所で、冷蔵庫に並んだ中から秋のお酒の代名詞“ひやおろし”を手にします。ついさっき訪れた寺部城址の名が入っているのも決め手です。
2021年末に老朽化のため駅舎が取り壊されてしまいプラットホームだけが残っている西幡豆駅に戻ると、ちょうど到着したばかりの電車から制服を着た学生たちが降りて来て少し賑やかです。
はじめて足を運んだ地で移り行く今日だけの情景、下弦の月の今宵は日本酒にあわせた焼き魚を楽しもうと決めました。
写真・文:ミゾグチ ジュン